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第3回「関西建築家新人賞」講評2008.04

 今回で「関西建築家新人賞」も3回目を迎え、賞の行く末等、特色付けを決定する大切な時期であると考えられる。そんな中、審査委員長として大役を務めることになった。
国際的な広い視野を持つ建築家の山口隆氏、そして、建築家以外の専門家に参加頂き、この賞が開かれた社会性とより客観的な評価視点を示す為に、第3者評価者として写真家の宮本隆司氏にお願いした。氏は、国際的にも注目されている美術写真家であり、若かれし頃から建築写真家としても活躍され、しかも建築に精通し鋭い建築批評の持ち主である。
 選考にあたり、我々の長時間の討議の中で、やはり、ここでの建築家の新人賞の意味は、その作家性にあると結論づけた。ならば一体、作家性とは、何にかの論議に至り、それは、その作品が宿す建築のテーマ性、すなわち何かしかの社会に対する批評性やメッセージ性を持ち得ているかいないかだろう。更には、現代のめまぐるしく変わる時代にあって、作品が消費されない存在であり、時代を超え、かすかな光でも放つものを有するかである。これらの視点が選考の指標となった。今回、16作品の応募があり、建築家協会に相応しく、いずれも新人の挑戦的な作品が多く、力量ともどもレベルの高い中での選考であった。第一段階で10案が選出され、再度、書類を前に論議を交わし、出来るだけ現地審査の対象とする事で、書類審査の結果6作品に絞られ、現地審査することになった。最終選考では、2日間にわたる長時間の論議に論議を重ね、3人一致で以下の受賞者が決定された。

受賞作品 2点  

トウフ 玉置順氏
 塊から刳り貫き空間を導き出す手法は古典的であるが、トウフという、柔らかな塊の刳り貫かれた空間の捉え方は新鮮さを感じた。この作品が発表されてからほぼ10年になり、様相も古び、当時の真新しい写真の面影は失われている。しかしながら、空間の私情性が我々の心を捕えた作品であり、機能性では決して決定できない物語性を宿し、結果として空間体験の重要性が浮き上がらせた作品で、作者の語る高齢者住宅とて機能せずとも、その強い空間のメッセージ性が伺え受賞に至った。

TRAPEZOID  荒谷省午氏
 空間は、エレメントの集積と建築素材で構成されることを再認識させられた建築である。そして、巧みな素材変化の空間表現によって住まいの多様性を導き、成功している。作者は、ここで徹底して素朴な素材にこだわり、既成品に頼らず、材料、建具、家具、小物に至る全てに、手の痕跡を感じさせるもの作りの手法に徹し、独自の世界観を完成させている。これは、なおざりに成りがちな建築家の、いつの時代にも必要な姿勢であろう。しかしまだ、作品の形態操作のぎこちなさと素材の力に頼りきる未熟さは拭えないが、今後の発展的可能性に期待したい。

次点作品

美津村株式会社 新社屋  菅 匡史
 この建築は、端正にデザインされ、快適なオフィス空間に仕上がった完成度の高い建築である。そして、透明感あふれるオフィス棟と対照的な倉庫研究等のボリューム、そして、水面と光を取り込み、これら施設との絶妙なバランスで構成し、環境的建築として全体が纏められている。はるかに新人を超えた力量が十分に伺える。ただ、ここでのこれらの巧みなシークエンス操作の演出は、体感として伝わりにくく視覚上で終焉してしまい、惜しまれたが受賞には至らなかった。

追手門学院大学中央棟  須部恭浩
 この計画は、大学のキャンバス生活をも変える程の出来映えである。象徴的なセンター棟のボリューム計画から部分エレメントに至る一貫した創意と工夫があり、更には、ランドスケープを含めキャンバスの再構成がなされている。この建築自体、建築の抱えるプログラムを明快に解き明かし、総体としては群を抜けた建築であり、建築家の総合力が伺える。しかしながら、作家性を対象とした評価軸で捉えるには建築用途からして難しく、最終まで論議されたが、次点となった。

薮之下の家  中村潔
 厳しい敷地条件にあって、周辺環境から閉ざされた空間でありながら、計画性だけに頼らず、構造的挑戦、空間の抽象性、光の扱いと狭小住宅ながら、可能性を感じた住宅である。これらの巧みな空間操作は、茶室の如く、閉塞感を感じさせない空間の豊かさを体感できた住宅であった。しかし、作品の中庭の光庭の曖昧さの意図、そして、作家として求める建築に対する遠投の到達点が見えにくく、次作に期待する事にした。

京都型住宅モデル  魚谷繁礼
 京都の市街地の住宅は、町並みや車庫等をさまざまな問題をかかえるが、真正面から挑戦的に取り組まれた現代町家としてのモデル住宅である。ローコストながら、素材の選択、中庭、伝統職人とのコラボレーションと、上質で京都のもつ場所性を生かした快適な住宅であると思えた。建築家としての責任の一旦である社会的問題に意欲的に取り組まれ、それ故に作品としての作家性は、薄れてしまい、審査の対象から外れることになった。

審査委員長 木村博昭